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大阪地方裁判所 昭和30年(ワ)1692号 判決

原告

西原憲一

被告

新大阪タクシー株式会社 外一名

主文

被告等は各自原告に対し金六五、〇〇〇円及びこれに対する昭和三〇年五月一九日から右支払済に至るまで年五分の割合の金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告等の負担とする。

この判決は原告勝訴部分に限り金二〇、〇〇〇円の担保を供するときは仮に執行できる。

事実

(省略)

理由

被告会社がタクシー自動車運送事業を営み、被告私市が被告会社の従業員であつて、タクシー自動車の運転に従事しているものであるとの原告の主張事実は被告等が口頭弁論において明らかに争わないから自白したものとみなされる。又被告私市が被告会社の業務上タクシー小型四輪自動車大五-一三三一八号を運転中、昭和二九年一〇月一六日午後八時五〇分頃、大阪市城東区北中浜三丁目四五番地先附近道路上で右自動車と原告とが接触して原告がはねとばされたことは当事者間に争いのないところである。

そこで成立に争いのない甲第二乃至第九号証、原告及び被告私市多各本人尋問の結果(一部)によると、右道路は南北に通ずる幅員二五米の歩道と車道の区別のない街路であつて、その中央の一二米幅だけがコンクリート舖装が施されていて、右事故現場附近は直線平担であつて見透しのよい地点であつたこと、事故当時は晴天で路面はよく乾燥しており、路上を自動車はほとんど通行していなかつたこと、原告が右道路を西から東に向つてやゝ南の方へ斜めに少し急ぎ足で横断していて右自動車が接近していることに気付いていなかつたこと、被告私市は右自動車を運転して時速三〇粁位で右道路を南進していて、一〇乃至一五米の前方を原告が横断しているのを認めたが、原告が右自動車に気付きこれを避けるものと思い、ブレーキの上に足を載せただけで減速をしないで、警笛を二回鳴らして進行したところ、原告が自動車に気付かなく、右自動車の前部右側が原告に接触して原告がはねとばされ前頭部挫創、左大腿及び下腿挫傷、左肩胛部挫創、左手挫創、及び外傷性歯牙骨折等の傷害を受けたことを認めることができる。原告本人の供述中右認定に反する部分は他の証拠に対比して信用できない。

およそ自動車運転者たるものは相当の速度を以て自動車を運転して進行中、前方の道路上に横断歩行者のあるのを認めたときは、歩行者が自動車に気付かないで歩行を継続し或は、これに気付いて驚きの余り急に停止したり、又は急に走り出したりして、自動車に接触し事故を起すことがあるから、減速して徐行しながら歩行者の挙動に注意し、必要に応じては直に急停車して事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるものであるところ、被告私市は右注意義務を怠つたため右事故が発生したものであることは右認定事実により明らかである。又、自動車の通行する道路を横断する者は、最短距離で直線に横断すべく、横断中常に通行中の自動車に注意して歩行し事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるものであるところ、原告も右注意義務を怠つたため、被告私市の過失と競合して右事故が発生したものであることも右認定事実により明らかである。尚被告は当時原告が飲酒していた旨を主張し、原告本人の供述によると原告は事故の少し前にビールを少量飲んでいた事実が認められるが、そのために酩酊するに至つていたものと認めることができる証拠はない。

成立に争いのない甲第八乃至第一一号証によると原告は右負傷のため中村外科病院に昭和二九年一〇月一六日より同月二五日まで入院加療しその後自宅療養し、又勝田歯科医院に同月二五日から同年一一月一日まで通院加療し、中村外科病院に対しては六、八〇〇円、勝田歯科医院に対しては一四、二五〇円を加療費として支払つたことを認めることができるが、原告主張のその他の損害についてはこれを認めるに足る証拠がない。

そして成立に争いのない甲第七号証によると原告は昭和五年一二月二八日生の韓国人であつて、父の経営する古鉄売買業株式会社西原商店の自動車運転手をしている者であることが認められる。

よつて右事故の発生に対する原告の過失を斟酌すれば、被告私市は原告に対し右損害金中一五、〇〇〇円を支払うべく、又原告の蒙つた精神的苦痛は右認定の各事実に鑑み金銭に換価すれば金五〇、〇〇〇円を以て慰謝されるものと認めるのを相当とする。

尚被告会社はそのタクシー事業のため被告私市を使用するものであつて被告私市は右事業の執行につき右事故を発生せしめたものであるから、被告会社も原告に対し被告私市と同様に右損害を賠償する義務があるものといわなければならない。

しからば原告の本訴請求は被告等に対し各自右合計金六五、〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和三〇年五月一九日から右支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合の遅延損害金を求める範囲においては正当であるからこれを認容すべく、その余は失当としてこれを棄却し、訴訟費用につき民訴法第九二条第九三条を、仮執行につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 前田覚郎)

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